「音程の違いが引き起こすこと」プロの指揮者・岡田友弘氏から悩める学生指揮者へ送る「スーパー学指揮への道」第12回






 

管弦楽や吹奏楽の指揮者として活動されている岡田友弘氏に、学生指揮者の皆様へ向けて色々なことを教えてもらおうというコラム。

主に高等学校および大学の吹奏楽部の学生指揮者で、指揮および指導については初心者、という方を念頭においていただいています。(岡田さん自身も学生指揮者でした。)

コラムを通じて色々なことを学べるはずです!

第12回は「音程の違いが引き起こすこと」。

さっそく読んでみましょう!


合奏するためのスコアの読み方(その7)

いよいよ4年に一度のアメリカ大統領選挙が迫ってきましたね。アメリカ国民がどのような選択をするのか非常に興味深いですね。僕もその成り行きに注目しています。

皆さんもニュースや学校の授業で知っているかもしれませんが、アメリカ合衆国は「2大政党制」の国です。厳密には2大政党以外の政党や党派に属していない勢力もあるのですが、一般的には2つの大きな政党が勢力を二分しています。その両者が互いに影響し合い牽制し合いながら「国の方向性」をより良い方向に運営していく仕組みです。

両者は対立をしているように見えますが、ただ喧嘩しているのではなく、議論を通して自分の国をより良い方向に発展させていくという想いでは一致しているのです。

多数決は民主主義の大原則ですが、それはあくまで最終手段です。民主主義で大事なのは「少数意見の尊重」なのです。自分とは異なる意見にも耳を傾けて、自分の考え方を丁寧に説明してより多くの理解と、より良い方法を見つけていくことがリーダーの役割だと思います。分断を煽ったり、派閥を作って争ったりすることを率先して煽るような態度はリーダーとして賢いと感心できるものではありません。

部活動や合奏のリーダーにも同じことが言えると思います。「オーケストラは社会の縮図」とよく言われます。言い換えれば「小さな国家」という言い方もできると思います。世界の国は全てが様々な人種や宗教など多様性に満ちています。多様性と個性を尊重して一人一人が輝くことのできる組織を作り運営することが、オーケストラや吹奏楽団という社会を円滑にするのに大事なことだと思っています。一人ひとりの良い部分を発見し、それを引き出すことのできる指揮者、それが「最高の指揮者」と言えるのではないでしょうか。 

§1.音程の違いが引き起こすこと

第11回では「音程(インターバル)」に関する様々なお話をしましたが、皆さんは音程のことがよく分かったでしょうか?音程とは「2音間の音の間隔、隔たり」でしたね!

それではその「隔たり」がどのような現象を起こすのかを考えていきます。

皆さんは「オシロスコープ」という機械を見たことはありますか?音の強さ、高さ、音色をそれぞれ「振幅」「振動数」「波形」として可視化もしくは、可視化したものから求めることができる手助けをする機械です。

今触れた「音の三要素(音楽の三要素ではありません)」の中で、ここで注目したいのは「音の高さ」です。それは振動数で各音を区別することができます。音にはその音特有の「振動数」があるということなのです。その振動数の比率によって、その2音間の響きが「協和している」もしくは「協和していない(不協和である)」という違いが出てくるのです。「お互いの音程が合わない」「響きが濁る」「音がうねって聴こえる」・・・それは全て「振動数の差」や「その振動数の比率」の違いに由来するものなのです。その上で「音量のバランス」や「合奏でブレンドする良い音色」という大切な要素が続いていきます。

「音高とは振動数である」ということをまず基本的なこととして覚えておきましょう。

§2.音の振動数を調べる方法

音の振動数を調べる方法は様々あります。現代の機械文明においてはオシロスコープのような機械を始めとして簡単に測定、比較できる物が増えましたが、古代より伝わる測定の方法をここでは紹介してみましょう。

以前「万物は流転する」の回で登場したギリシャのヘラクレイトスを覚えていますか?そのヘラクレイトスの師匠にあたる人物が、音楽を科学として発展させた功労者として知られるピュタゴラス(ピタゴラス)が使ったとされる音響測定器「モノコード」です。このようなもので「一絃(弦)琴」とも呼ばれます。もしかしたら皆さんの学校の理科室や研究室にモノコードがあり、見たり触ったりしたことがある人もいるかもしれませんね。

UCHIDAS(株式会社内田洋行運営の通販サイト)」より引用

それではモノコードについて、音楽辞典ではどのような説明がされるかを引用します。

モノコード(英・monochord)

一弦琴。楽器および音律測定用具の2種類がある。楽器としてはベトナム、日本、アフリカなど。測定具としては弦長の比率によって音高がどんな関係を持つかが、古くから考察されていた。

(音楽之友社「新音楽辞典(楽語)」より引用)

このモノコードに張られた一本の弦の駒を移動させて弦の長さをいろいろな長さに分割することで、いろいろな音高を鳴らすことができます。

理論としてはこのようになります。

・弦の長さを2分割すると、各部分では弦の全長の時の音に対して1オクターブ高い音(完全8度)が出る。振動数の比は1:2。

・弦の長さを3分割すると、弦の全長の時の音に対して1オクターブ(完全8度)+5度上(完全5度)の音が出る。振動数は2:3。

4分割すると3:4・・・というように振動数が変化していきます。

これを順番に並べてみましょう。

西尾洋一著「応用楽典 楽譜の向こう側」(音楽之友社)より引用

このピュタゴラスの方法によれば、弦を2分割することで1オクターブ(完全8度)、3分割することで1オクターブと完全5度、4分割することで2オクターブ高い音が得られることがわかります。

これをこの表のように順番に並べていくと・・・それらの隣り合う音の音程は「完全8度」「完全5度」「完全4度」となります。このことは音楽や音程、和音などにとって非常に重要な事柄として覚えておきましょう。分割が細かくなればなるほど振動数の比は小さくなり、音程が小さくなっていくことが分かりますね。これを続けていくと、皆さんが合奏や先生の指導などで耳にしたことがあるかもしれない「倍音」の列「倍音列」になるのです。倍音のことを「上音」と呼ぶこともあるのですが、それはある基準の音をこのように分割していくと得られる「上方の音程の音」という意味で用いられるもので、意味は同じです。倍音についてはまた改めて項を設けたいと思います。

参考までに1オクターブ内の長音階における各音の振動数をここに記しておきます。振動数の比が単純なほど、響きは純粋に、協和したように感じると思います。逆に振動数が複雑なほど響きは先鋭化し、緊張感のある不協和を感じるでしょう。ぜひ実際に2音をピアノで弾いてその響きの変化や特徴を聴いてみて下さい。それらの音程は理論上、「完全協和音程」「不完全協和音程」「不協和音程」に分類されはしますが、響きの感じ方は人によって千差万別ですので、理論用語は用語として覚え、大切なのは「聴いたらどんな響きがするだろう?」という皆さんの聴覚の力が一番大事だということを忘れずに。

c:d=8:9

c:e=4;5

c:f=3:4

c:g=2:3

c:a=3:5

c:h=8:15

c:c(オクターブ上)=1:2

§3.古代・中世の「音楽」の位置づけ

以前のコラムで触れましたが、古代ギリシャにおいて音楽は「科学」の一分野でした。中世においても学習が必須とされた「自由7学科」の中では文系3科としての「文法」「弁論」「修辞」と、理科4科としての「算術」「幾何」「天文」そして「音楽」というものが重要視されていました。ただしこの場合の音楽は実際に鳴り響くものというよりはむしろ理論のことで、現在でいう「演奏実技」としての音楽は「現実社会の職人芸」として区別されていいました。どちらにしても「音楽は科学の一分野」であったのです。事実、音楽は数学、物理学、生物学などと密接な関わりを持っています。

古代より「自然界に存在するものにも、ある法則性を見出すことができる」とされていました。そしてそれがシンプルに美しく存在するものが崇高なもの、至高のものとされてきました。

他の科学分野と同様に音楽も「神が創造した完全なる世界に見られる単純で美しい数比、それの具現化」を発見し研究し追求するものだったのです。西洋音楽を理解する上で「聴こえない音、または隠された数的秩序」というものが大変重要な考えであったことをお伝えしておきたいと思います。ですからまだ音にされていない「楽譜」のなかの音楽とその理論というものが、実際に鳴り響く音楽や合奏においてないがしろにしてはいけないことであるということが言えるのです。実際には音の鳴っていない「休符」にも、音楽の開始前や終了後にも・・・常に音楽を感じる姿勢が大事だと思っています。

科学としての音楽においては、比率そのものの美しさは聴いても美しいということになり、つまり「音楽が美しいのは比率が美しいから」であるという考えになります。その美しさは例えば1:2や2:3のような単純な数比だという考え方です。美というものは実際に聴こえていなくても存在する「真理」です。音楽の理論における「数的な調和」こそが「世界の調和」であり、「人間の心の調和」であり、「実際に鳴り響く音の調和」と昔の人は考えました。

その「世界」「人間」「音」の3つの調和のことを「ハルモニア」と呼び、ハーモニーの概念の直接の起源になっているのです。

この中で一番上等なものとして位置づけられるのが「世界の調和」で、音として聴こえるものはどちらかと言ったら副次的なものでした。ちなみに、以前のコラムで紹介したドイツの作曲家ヒンデミットの作品の中に「世界の調和」というオーケストラの曲がありますが、この曲はドイツの天文学者ケプラーを題材とした作品で、ケプラーの著書のタイトルが元になっています。機会があれば是非聴いてみて下さい。

「ハルモニア」と聞いて皆さんが一番に思い浮かんだ曲は、フィリップ・スパークの大曲「宇宙の音楽(天球の音楽)」かもしれません。この曲の楽章の中に「ハルモニア」という大変感動的なメロディーの部分がありますね!僕もとても大好きで、思い出の詰まった曲の一つです。

音楽の調和には「人間の調和」が必須であり、それが「世界の調和」に結びつくお話をしました。音楽にとって「調和」と「調和に向かうこと」というものが非常に大切な要素になります。皆さんには音楽においても、音楽以外のことに関しても「調和することの大切さ」を考えて欲しいと思います。

次回は「音程」の種類についてもう少し深くお話しながら「協和する音、しない音」について考えていくことにします。

次回もお楽しみに!

→次回の記事はこちら


文:岡田友弘

※この記事の著作権は岡田友弘氏に帰属します。


 

以上、岡田友弘さんから学生指揮者の皆様へ向けたコラムでした。

それでは次回をお楽しみに!

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岡田友弘氏プロフィール

写真:井村重人

 1974年秋田県出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後、桐朋学園大学音楽学部において指揮法を学び、渡欧。キジアーナ音楽院大学院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ウィーン国立音楽大学、タングルウッド音楽センター(アメリカ)などのヨーロッパ、アメリカ各地の音楽教育機関や音楽祭、講習会にて研鑚を積む。ブザンソン国際指揮者コンクール本選出場。指揮法を尾高忠明、高階正光、久志本涼、ジャンルイージ・ジェルメッティの各氏に師事。またクルト・マズーア、ベルナルト・ハイティンク、エド・デ・ワールトなどのマスタークラスに参加し、薫陶を受けた。

 これまでに、東京交響楽団、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、数多くのアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力し、地方都市の音楽文化の高揚と発展にも広く貢献。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わり、マスコットキャラクターによって結成された金管合奏団“ズーラシアン・ブラス”の「おともだちプレイヤー」(指揮者)も務め、同団のCDアルバムを含むレコーディングにも参加。また、「たけしの誰でもピカソ」、「テレビチャンピオン」(ともにテレビ東京)にも出演し、話題となった。

 彼の指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。

日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。




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